君が来る前日は

必ず夢を見る



必ず、同じ夢を見る















  繋












はぁ・はぁ・はぁ

息が上がっている。
手がべたべたして気持ちが悪い。
これが発する匂いには、もう慣れた。
目の前のモノは、苦しそうに呻いている。
俺は苦無を持ち直して。
あぁ。
その動く塊に、打ちさして。

そして気配を後ろに感じる。

ダメだって。
お家で良い子にしてなさいって、言ったのに。
振り向いた俺の顔は、怒っているのだろうか。
泣いているのだろうか。
そこには。
彼女の、姿があって。

見ちゃダメだよって。
言いたかったのに。
でも、本当は。

血塗れの自分を、見せたくなくて。

こっちは危ないから、下がってなさいと言おうとしたら。
この血が、怖かったのかな。
彼女は酷く怯えた表情で。
後ずさって。

彼女の首は、一瞬で胴体から離れて行った。

溢れ出る血飛沫の向こうには。

あぁ。







「・・・・・・・っ・・・あぁっ!!」

跳ね起きて、漸く先のことが夢だと自覚する。
汗が酷い。
呼吸も乱れている。
頬を伝う汗を拭おうと手を伸ばせば、どうも俺は泣いていたらしかった。
何だか無性に怖くて恐ろしくて、自分で自分の肩を抱く。
涙が止まらない。
震えも止まらない。
呼吸が荒すぎて、咳込んだ。
どれだけ走っても、こんなに呼吸が乱れることなんて無いのに。
ギュッと目を瞑って、何とか自分を落ち着けようとした。


君が来る前夜は、決まってこうだった。


が生まれた日から、それは始まったのかもしれない。
一番近くで、誰よりも彼女を見てきた。
自分が忍の道を行くことになって。
それならば。
自分が彼女を守ろうと、思っていた。
俺にはしかいない。
だけが大切で。
彼女さえ幸せならば、他は何だって切り捨てるつもりだった。
けれど。
あぁ。
確かに、の笑顔を守りたかった。
でも、それは俺の隣にいることが大切で。
一番近くで、これからも守りたくて。
けれど、忍の俺に何が出来る?
忍の俺が、そんな大切なものを連れて歩けるはずがない。
大切な物は、そのまま弱点となり。
彼女を危険にさらすことになる。
守るって思ったのに。
俺がいるから、守れない。
じゃあ、どうすれば良いのさ。

いつもいつもそれが頭を巡って、怖くなる。

ねぇ、
俺、お前がいなきゃダメなんだ。
笑えないんだ。
騒げないんだ。
でも、お前がいなければ・・・この苦しみも知らなかった。
だからかな。
いつも夢に出てきて、の鮮血を降らせる男は。
俺・なのは。


グスッと鼻を鳴らす。
と、いつの間に起きたのか同室の長次が俺の背中を撫でていた。

「・・・・・起こしてごめんな。」
「・・・・・良い。」

長次はポンポンと、子供をあやす様に背中を叩いてくれる。

「・・・朝、まだかな。」

朝になれば、が来る。
早く会いたい。
早く抱き締めて。
怖い夢を見たって言って。
そうしたら、は笑って抱き締めてくれるから。

「・・・・・小平太。」
「何?」

ぐすりと鼻を啜って、長次を見やる。
泣いてる姿なんて誰にも見せたくないけれど、と長次にはあまり抵抗がなかった。
そういう意味では、この同居人は凄いのだろう。
長次は俺の髪をわしゃわしゃと撫でて。

「・・・・・の事になると可愛いな。」
「・・・・・なんだよそれ。」

少しだけ笑って、空を見た。
もう白々と明けてきた頃。
俺は長次の肩に頭を寄せて。

、早く来ないかな。」

ちゃんと出迎えてやらなきゃなと、同居人は聞き取りにくい声で呟いた。

「・・・うん。」

 

早く会いたい。

君がいれば、あんな夢は見ないから。

抱き締めさせて。


大丈夫って言って。

 

傍にいて。

 

 

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いまいち求めた物にならない

 

 

 

 

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