それは、とある放課後。


体育委員会で、定例の焙烙火矢DEバレー大会休憩中のことだった。





全く。

だから俺に無断で出歩くなって言ったのに!












   過保護












「・・・何やってんの?」

彼女・・・は俺たちを見てそう呟いた。
何って、当然。

「バレーボール!」
「いやいやいや、それにしてはボロボロ過ぎない?」

は土や煤で汚れた俺の顔を手拭で拭いてくれながら、周りを見渡した。
それに釣られて、俺も周りを見やる。
即興で引かれたコートの枠線は見る影もなく、所々地面は無残に抉れており。
その周りには、これまた無残に煤扱けて気絶している我が委員会の面々。
確かに。

「なんでこんなに、みんなボロボロなんだ?」

俺がそう言った途端、皆が一斉に起き上がって口々に叫んだ。

「それは小平太先輩が無駄に沢山用意した焙烙火矢に!」
「なぜか乱入してきた三木ヱ門先輩が滝夜叉丸先輩と掴み合いの喧嘩をしだして・・・」
「三木ヱ門先輩が持っていた火種に向かって小平太先輩がおもくそアタックしたから!」
「連鎖に連鎖が重なって・・・。」
「「こうなったんです!!!」」

おお。
なんて息がぴったりなんだ。
流石我が委員会メンバー。
良く訓練されている。
なんて思っていたら、もそう思ったらしく嬉しそうに拍手をしている。

「要は兄の所為なんですね!」
「そうなんですよ・・・もうちょっとお兄さん大人しくなりませんかね?」

地味に失礼な事を言っている金吾にチョップを食らわせながら、俺は滝と三木を見やった。
変だ。
こんな時はいつも我先にと自己主張してくる二人なのに。
別に見た目ほどダメージを食らっているわけでもなさそうなのに、あの大人しさ。
なんだ・・・?

妙に思いながら見ていると、がその二人の元に寄って行く。
そういえばとあの二人、同い年だっけ。
偶に滝や三木と話しているところを見るけど、やっぱり同い年だと話しやすいんだろうな。
いつも俺たち6年が取り囲んでるから気付かなかったけど、なりに気を遣ってたのかもしれない。
友達が出来るのは兄としても喜ばしい。
が。

「お二人とも一番火矢の近くにいたんですね・・・衣服がボロボロ。」

くすくす笑う彼女は、足を挫いているらしい三木の手を取って立ち上がらせようとする。

「あ・・・あぁ・・・・・・。」

そして、立ち上がる三木。
なんだその呻き声。
と目も合わさないし、声も浮いている。

「ほら、滝夜叉丸さんも。」
「・・・・あ、ありがとう・・・。」

頬を掻きながら立ち上がる滝。
なんでそんな謙虚なんだ??
とも思ったが。

暫くして、思い至った。
あぁ・・・。
二人とも、惚れてるのか。
釈然としない気持ちのままの様子を見ていると、小首を傾げてこちらに戻ってきた。
そして俺だけに聞こえるように、小声で呟く。

「ねぇ・・・何であの二人っていつも元気ないの?」

あいつら、の前ではずっとあんなんなのか。
まだ斜堂先生の方が元気だぞ。
大体忍者が相手にバレバレの行動を取ってどうする。
いや、でもそれよりも。

。」
「はい。」

こんなに素直に返事をする良い子なのに。
はぁ・・・とため息をついて軽く額をつついた。

「なんで、滝や三木と知り合いなんだ?」

そう。
今回の論点はここだ。
ここに限る。

俺は、を今まで手塩に掛けて育ててきた。
夏だろうが冬だろうが、忍者の仕事にかまけて全く家に帰ってこない両親。
そんな両親を健気に待ちながら、1人畑仕事に精を出す妹。
そしてそんな彼女を溺愛している俺。
当然、忍術学園に来る前まではずっと一緒にいたし。
学園に入ってからも、休みは必ず家に帰っていた。
所用で帰れないときは彼女をこちらに呼び寄せたりもした。
そんな俺が徹底して行ったことがある。
彼女の、教育だ。
教育と言うとちょっとキツイかもしれない。
が、要はが変なのに引っかからないようにするための、約束事を守らせてきたというわけだ。
その1つに、学園内ではやたらと知り合いを作らないことがある。
忍術学園は全寮制だ。
そして、圧倒的に男子の比率が高い。
そして少ない女子は・・・くノ一だ。
入学したての頃に負わされたトラウマの所為で、我が学園でくノ一に手を出そうとする男子は少ない。
殆どいない・と言っても良いくらいだ。
そんな中、くノ一でもない普通のカワイイ女の子が目の前に現れたらどうする?
まぁ、惚れる。
下級生はどうか分からんが、上級生ともなると良いお年頃だ。
手を出してくる輩も出てこないとは限らない。
だから。
なるべく、知り合いは少なめにしておくように言っておいたのに。
はぁ・・・と、再びため息をする俺を覗き見ながらは笑った。

「なに?」
「ため息するお兄ちゃんなんて珍しいと思って。」

あ、拭き残し・・・と、は俺の頬を手でこする。
あぁ、もう!

「誰の所為でため息ついてると思ってるの!」

ギュウと彼女の体を抱きしめる。
あんまり心配させないで。
変な男に騙されないで。
出来れば、俺以外の男を見ないで。
目を閉じて肩に顔を埋めれば、は笑って俺の背中をポンポンと叩いた。

「大丈夫だって。」

そして、俺と同じようにギュウと抱き付いてきて。

「私の一番は、いつだってお兄ちゃんなんだから。」


全くもう!
この子はどれだけ俺の心を奪えば気が済むの!

「さ、お夕飯食べに行こう?」

体を離して手を出しだす彼女に、俺はこくんと頷く。
そのままと一緒に食堂に行こうとしたけれど、ふと思い出して立ち止まって。
いまだ疲労困憊で蹲っている我が委員会の面々に言ったのだった。

「って事だから、体育委員解散!お疲れ〜!!」







二人が仲睦まじく去っていく後姿を見ながら、不貞腐れる男が二人。

「なんでよりによって、の兄が小平太先輩なんだ・・・。」
「しかもあの溺愛様・・・手を出したら絶対コロサレル・・・。」

滝夜叉丸と三木ヱ門は、互いに見詰め合って・・・先の小平太とは比較にならないほどの重いため息をついた。

「で、この穴埋め・・・私たちがするのか?」

背後に広がるバレー大会の傷跡を、心底厭そうに滝夜叉丸が呟く。

夏の日も沈みかけた頃。
涼やかな風が、皆の何度目かのため息を優しく撫でた頃の話だった。

 

--------------------------------

滝はこへと一緒にいるときが一番可愛い

 

 

 

 

inserted by FC2 system