とてもとても無邪気に
キャッキャと戯れる兄弟が一組
梅雨も明けて間もない頃、うっすらと汗ばむ季節のことだった
「お兄ちゃん太くなったね!」
「鍛えたって言って!!」
彼女・・・小平太の妹であるは、小平太の腕にしがみついて喜んでいた。
時刻はみな風呂にも入って、自室でのんびりしている頃。
布団も敷いてしまった小平太・長次の部屋にはいつものメンバーが終結していた。
6年生の面々6人と、の7人である。
流石にその人数だと少々窮屈さも感じるが、このメンバーは割と一斉に集まる事が多いのでもう慣れたものである。
明日は休日。
これから宴会でもしようかという流れだった。
「さて・・・一応酒も持ってきたが・・・。」
仙蔵が大きな酒樽に肘を掛けながら、を見た。
見られた彼女はといえば、良く分からないように笑って首を傾げている。
「は酒は飲めるのか?」
「あ、ムリ。死んじゃう。」
仙蔵の疑問を軽快に振り払ったのは、他でもない小平太。
はいまだに良く分からないように事の成り行きを見ている。
「そんなに弱いのか。」
「ていうか、俺が死んじゃう。が酔った勢いでさぁ・・・。」
曰く。
酒の勢い・・・という事だろう。
判断力が付かなくなった妹が、どこの馬の骨とも分からない輩と間違いでも起こしてしまったらどうしよう・・・というのが、小平太の言い分だった。
その彼の熱弁に、周りは半眼する。
「お前相変わらずシスコンだなぁ・・・。」
「え、そう?」
当然と言うようにを前に置いて、抱き締める小平太。
妹はと言えば、もちろん成すがままだ。
その姿を見て、留三郎はいつも思っていた疑問を口にした。
「はイヤじゃないのか?」
しん・・・という形容詞がここまで似合う場面もそうそうないだろう。
皆、誰も何も言わない。
ただ、先の疑問を出した留三郎を皆がぽかんと見つめていた。
見つめられて、少し居心地の悪そうにする留三郎。
を、援護するように仙蔵も口を開いた。
「そうだな、今まで余りに小平太が当然のようにしているから別になんとも思わなかったが・・・はどうなんだ?」
長次から酒のつまみを貰って喜んでいたが、急に話を振られて「ん?」と抜けた声を出す。
「何がですか?」
「だから、お前は小平太が邪魔じゃないのかということだ。」
そう言われ、はもぐもぐと口を動かしながら、後ろにいる兄を見つめる。
兄は兄で、長次に俺もそれ食べたいとねだっているところだった。
皆がの言葉を待って、数秒。
熟考したように見えた彼女が言った言葉は。
「私は、お兄ちゃんのものだから。」
部屋が騒然とした事は、言うまでも無い。
◇
「だって、そういうものなんでしょ?」
あっけらかんという少女に、一同が思い切り否定の言葉を投げかける。
「いやいやいや、ちゃんはちゃんのものだから!」
「一体どういう教育を受けてきたんだ!?」
「一般常識みたいに言ってるけど全然違うからね!??」
尚もギャアギャア言う一同に、小平太はしかめっ面をしてを抱き締めた。
「お前らあんまりに変なこと吹き込むなよ。」
「お前が吹き込んでるんだろうが!」
一同のツッコミを受けて、小平太はふふふと勝ち誇ったような笑みを浮かべた。
「俺がに吹き込むだって?違うな、刷り込んだのさ!!」
「余計タチ悪いわぁっ!!」
ツッコミと共に留三郎から放たれた手刀を受けようと、小平太はを離す。
「お前に当たったらどうすんだ!?沈めるぞ!!」
「お前がのために沈んどけ!!何だその自分に都合の良い教育は!」
「そうだぞ、お前がそんなアホな教育をし無かったら今頃は私と・・・!」
そして掴み合いの言い争いは、いつしか文次郎、仙蔵も交えた乱闘になり。
それを拍手しながら楽しげに見ていたに、伊作と長次がにじり寄った。
そして彼らには聞こえないように。
「ねぇ、ちゃんは小平太の事好きなんだよね?」
伊作の問いに、は素直に頷く。
「・・・で、どんな教育をされてきたんだ?」
意外と興味津々なのか、長次も話に乗ってきた。
いつもが忍術学園に泊まるときは、小平太の部屋。
つまりは長次の部屋でもあり、それなりにへの興味もあるのだろう。
聞かれた彼女はうぅんと空を見て。
「色々あるけど・・・まとめて言うなら・・・。」
はまだ乱闘騒ぎをしている兄たちを見て、クスリと笑う。
「いつもお兄ちゃんの事を考えてなさい、ってことかな。」
そんな約束させるなんて、バカよね。
言われなくっても、いつだって考えてるのに。
お兄ちゃんは気付いているかしら。
一応ね、私だって世間の常識くらい知ってるよ。
私たちが、ずっと一緒にいちゃいけないことも。
でも、お兄ちゃんが望んでくれるから。
一緒にいよう?
これが、七松家の常識だってことにしておいて・ね。
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こへの教育は徹底的。